木名瀬佳世建築研究室 KINASE KAYO ARCHITECTURE LAB

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シーランチ(北カルフォルニア)

チャールズ・ムーアによるシーランチ・コンドミニアムは、学生の時に建築写真誌で見て心惹かれた作品の一つだ。実際は4人の建築家のチームMLTW(4人の建築家、Moore Lyndon Turnbull Whitakerの頭文字)により設計された。太平洋に向かって崖地に立つ傾斜屋根の木造建築は、勇敢にも見え、一方でその内観はポップにペイントされた壁や、色々な高さの空間が楽しげに見えた。

シーランチ・コンドミニアムに隣接するシーランチ・ロッジというホテルに泊まれるということで、宿泊費やレンタカー代に怯みながらも、思い切って行くことにした。サンフランシスコのダウンタウンから車で約2時間。道中は、田舎町や農場、牧場、荒地等を通り、アメリカの大地の大きさを感じた。ロッジは、コンドミニアムと同年代の1968年に別の建築家によって建てられた。設計はAl Boeke and Louis McLane with Agora Architectsで、Boekeはシーランチの立役者でもあった。

シーランチ(The Sea Ranch)とは、プロジェクト敷地一帯の名前であり、その敷地はカリフォルニア海岸に沿って10マイル(約16km)も続いている。1960年代に発足したこのプロジェクトは、世の中が環境問題を意識しだした1970年代より先駆けて、環境について考えていたという。 レッドシダーの内外装が特徴的だ。荒い木肌と、無骨なディテールは、壮大な景観と丁度良い。広い敷地にとけ込むように、ぽつぽつと建物がたっている風景は、強いビジョンの上に成り立っている。元の風景をなるべく壊さず、こまごま個人所有に分けず、海岸を共有し、環境を保護する、というようなビジョンだ。

宿泊施設であるシーランチ・ロッジは、庭を経由してそれぞれの部屋へ直接入る。今回は2階の6号室に泊まることになった。32㎡ほどの広さで、勾配天井で開放感があり、窓からは太平洋を臨むことができる。内装は、板張りの勾配天井に、板張りとペンキ塗りの壁で、床はカーペット敷き。浴室はシンプルで統一感のある家具に、シーランチのシンボルマークが入った案内などのグッズ、バスアメニティがリッチな気持ちにさせる。

コンドミニアムの海風を受け流すかのような片流屋根は、遠くから見ると地面の傾斜を反映しているように見える。実際に中庭へ行くと、傾斜に沿って床の高さを変えていて、敷地を生かした計画であることが分かる。個人所有の建物ということで、残念なことに中には入れない。複雑な形態で、起伏のある地面との関係性は感じることができる建物である。傾斜を活かした構成はロッジでも多く使われていて、受付やレストラン等がある本棟にはスキップフロアで空間が展開して行く。

写真で見てファンになったシーランチ。実際に行ってみると、説得力を感じた。形態や仕上げがビジョンや環境に合っているためだろう。その上でインパクトがあり、美しいからこそ、写真からにじみ出るパワーがある。(写真・文 :塩谷太一)

  • ロッジのレストラン。

  • ロッジの外観 牛の角のようなシンボルマーク。

  • ロッジの海側外観。

  • 車寄せの軒下空間。

  • 霧の中のガーデン。

  • 6号室のエントランス。

  • 6号室のインテリア。

  • 夕日を受けたロッジ。

  • ロッジのレストランから見えるサンセット。

  • コンドミニアム1。

  • コンドミニアム2。

  • コンドミニアム3。

  • コンドミニアム4。

  • コンドミニアム5。