中銀カプセルタワービル
外観。廃墟ユニットもあり、老朽化が著しい。故黒川紀章氏設計の名作、中銀カプセルタワービルが取り壊しの危機にあるとのことで、存続しているうちにと宿泊体験を行った。
中銀カプセルタワービルは1972年竣工、黒川氏の初期の代表作であると共に、メタボリズムの代表的な作品である。
メタボリズムとは、「新陳代謝」にアイデアを得た、都市も建築も時代や周囲の環境に応じて有機的な成長をしていくものという思想である。このビルで言うと、それぞれの部屋(カプセル)を一ユニットとして独立させ、エレベータ、階段を含む二本の中心のコアに取り付いており、必要に応じて容易に取り外し、交換できる仕組みになっている。カプセルは形や大きさが同じであれば、時代やニーズに合わせて中身(室内の構成)も生まれ変わっていく。他のカプセルと連結させて大きくすることも想定されていたそう。
設計当初は25年ごとに新しく交換する予定だったが、142個あるカプセルは実際には一度も交換されていない。カプセルを一つ作りなおすための費用対効果が合わないことが主な理由のようである。同様のビルが沢山建設され、一カプセル自体の単価が安くなることによって、古くなったら気軽に交換できるはずであったが、実際はここしか作らなかったので、カプセルを交換するには莫大な費用がかかってしまう。40年経過し老朽化が著しく、アスベストも問題視されているため、一度は取り壊しが決定されたが、多方面からの保存・再生運動が行われ、立て替えは保留になっている模様である。
時代を象徴する、とても貴重な建築物ではあるが、実際に行ってみると、老朽化が著しく、今までも修繕に適切な費用をかけていたとは思えないほどの状態であり、長い目で保存していくことを考えると、莫大な費用をかけて修繕しなければならないように感じた。利用したい方も多いようなので、利活用を前提とした保存の仕組みづくりができれば、存続できるのかもしれない。
私が宿泊したユニットは、お湯が出ないものの、建設当初の雰囲気を活かしながらきれいに改装されており、70年代にタイムスリップしたような気分になった。部屋は内寸で幅2.3m×奥行3.8m×高さ2.1m、その中に収納と3点式のユニットバスが配され、非常にコンパクトで機能的な作りになっている。開閉式の丸い窓からは、首都高速や電通ビルなどが眺められる。
黒川氏はセカンドハウスとしての利用を想定していたため、機能もデザインも非常にミニマルな空間であった。11月末でも意外に寒くなく、快適に宿泊できたが、定住するには機能が不足しすぎていて、お薦めできないなとも思った。
-
外観。廃墟ユニットもあり、老朽化が著しい。
-
カプセルを交換するイメージ。出典: arquitetesuasideias.com
-
館名板。濁点や半濁点は無くなってしまった。何とも言えない脱力感がある。
-
壁に直接階数が塗装されている。
-
内部の様子。丸い窓は意外と大きく感じる。
-
玄関まわり。ユニットバスのドアのデザインがとてもかわいい。
-
ユニットバスの内部。なかなか効率的な配置である。今でもこういうデザインがあったら売れそう。
-
丸窓からは電通ビルが見える。