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盈進学園東野高校





盈進学園東野高等学校は1985年に建てられた、クリストファーアレグザンダーが設計した建物である。アレグザンダーが提唱した「パタンランゲージ」の手法を用いて、設計が進められた。竣工当初の各建築誌の評価は高くはなかったようである。また、施工の方法もアレグザンダーのやり方と合わず、最後までもめていたという記述もあり、どんな建物なのか、「怖いもの見たさ」といった気持ちもありつつ、訪問した。

第一の門の段階で、その奥に建っているであろう、建築に期待をした。第一の門は何風とも言いづらい格好であった。瓦葺きではあるが、入り口はアーチ状に開けられ、さらに、天井は梁を見せておきながら、壁との取り合い部にはモールディング(?)が施されたものであり、意匠的には理解しがたいものであった。だが、この門の役割は意匠がどうこうのことではなく、その先の正門に続く道は少し右に傾いており、これまた独特なデザインの正門を斜めに見ながら、人を奥に誘導していくことであった。意匠は全く違うが、ヨーロッパのまちでよく使われる手法であり、どこか、テーマパーク(というと言い過ぎではあるが)に入っていくような気持ちになった。







何とも言いがたい、正門の先には、期待していた、町並み(校舎群)が広がっていた。正面には広場と大きな池、その先に少し小高くなっているところに食堂、右手には行動、左手に教室群が建っている。職員さんの案内のもと、まずは池に架かる橋を渡って食堂へ。

ここからはキャンパス全体が見渡せ、校舎はそれぞれが独立しているように建ち、集落のような景色が広がっていた。もうこの時点で、今回の訪問に満足していたように思う。
食堂は木造で、外壁にはアールのある菱形のような意匠が施され、室内にも所々に同じモチーフが使われていた。大空間が単にあるのではなく、何人かで入れるようなアルコーブが並んでいたり、2階にも部屋があり、各々が好きな所で、好きなように過ごせるのではないかと感じた。





再び池を超えて、教室群のある、集落の中に案内された。休み時間と重なり、生徒達は教室から出て、次の教室へ移動したり、外で友達と話していたり、教室の後ろにロッカー置き場として作られた縁側のようなスペースで楽しく会話している様子が見れた。ロッカースペースは各教室によって多少、使い方が違うようであったが、校舎と校舎の間の広場に面している為、皆、外に大きく開放し、教室がプライベート空間だとすると、セミパブリック空間のような使い方がなされ、さらに集落っぽく建てられていると感じられた。







今回の訪問で一番感動したのは、教室群の配置であった。先の第一の門から、正門までの道と同様に、道が少し曲がって通されていた。教室群が少しずつづれて配置され、そのことによって、教室群を繋ぐアーケードになった通路や、道は曲がっていき、奥が見通せない。このことにより、見えない先の空間の広がりを感じられるようになっていたと思う。この手法はベネツィアのまちの作りかたから始まり、現代のショッピングモールにも使われるような手法であり、その効果を十分に感じられる配棟計画になっていたように思う。





教室群は入り口に近い方から普通教室や職員室、その先に特別教室、体育館、さらに先に武道場などが配置されていた。教室群の途中には屋根の架かった屋外空間があり、その側廊に設けられたアルコーブはイスラムの礼拝堂やヨーロッパの教会をイメージさせるものであり、日本人建築家の発想にはない空間だと感じた。そこは外にも中にも開放されていながら、囲まれる安心感が得られ、自然光が気持ちよく注ぎこみ、何時間でも居たくなるような空間であった。







体育館や武道場は小さめではあったが、木造のアーチやトラスの架構で作った大屋根は迫力のあるものであった。







最後に講堂に案内された。外装と同じく内装にも独特のモチーフと色彩が用いられた空間であった。天井は非常に高く、木製の梁がかけられ、2階の階段状の観客席や天井から吊り下げられたシャンデリアなど、格式高く感じられた。入り口やそれに続くホールが小さく天井が低かった分、より、講堂内の空間の広さを強調させているように思った。





竣工より30年近く経ち、経年劣化してしまったところがあったり、改修されたため、木製サッシであったところがアルミサッシに変わり、意匠的にも劣化してしまっている所はあったが、これらの校舎で過ごしていらっしゃる方々を見ただけでも、いい建物なのだろうなと感じさせる空間であった。案内をしてくださった職員さんや、見学のあとに時間を作ってくださった理事長さんの話を聞くと、教室移動の度に靴を履き替えないといけないことや、講堂に全校生徒が入りきれないことなど、不満は聞こえてきたものの、逆にそれらがいい影響を与えているような話ぶりだったのも面白かった。
結局、パタンランゲージがどのように実践され、どのような効果をもたらしたのかは、分からないままであったが、アレクザンダーの設計手法も正しいものだったのだろうということだけは分かった。
非常に勉強になった訪問であった。









東野高等学校の見学でお腹いっぱいになりつつも訪れた中村拓志さんの森の礼拝堂も素晴らしい建築であった。1mmの誤差も許さなかったという施工が作りだしているのか、空気がシンとするような空間であった。照明は祭壇に2カ所しかなく、ほぼ自然採光だけで照らされた合掌造りの骨組みは美しい。平面的にはアールの形状を作り出し、どこか、緊張しながらも心を落ち着かさせる。
外壁として見えるアルミの板葺きは乱に葺かれ、それに影を落とす周りの木々、窓から見える内部の骨組みはそれぞれが全てよく、たたずまいの美しい建物であった。









休憩等は敷地と道路の傾斜を活かして、部屋全体が半地下のような空間となり、FL+500ぐらいの位置に水盤が張られ、軒を深く取った庇も周りの環境をシャットダウンするようなつくりとなっていた。礼拝堂と同様に天井にはきれいな木の骨組みをみせることで天井を広く見せ、落ち着いた空間を演出していた。水盤の高さがはもう少し高い方が地中に埋まっているような静かな空間を演出できるのではないかと感じたが、礼拝堂と同様に、本当に美しく作られた建物であった。
(写真:山王こず恵、文:笹井夕莉)