木名瀬佳世建築研究室 KINASE KAYO ARCHITECTURE LAB

MENU

MENU

ソーク研究所(サンディエゴ)

ロサンゼルスから南へ車で約3時間のサンディエゴに、ソーク研究所がある。学生時代に建築誌でこの中庭を見て衝撃を受け、実際に行ってみたいと強く思った。ルイス・カーンによるこの研究所は、ソーク博士の名を冠したもので、竣工から何十年もたった今も、現役で使われている。木製サッシを除けば、コンクリート打放も床の石も美しいままである。

ソーク研究所では1時間程度の建築案内ツアーがあり、この日は20人程で回った。ガイドの女性が、どんな質問にも丁寧に答えてくれる。ツアーはネットで申し込め、15ドルで参加できる。まず1995年に建てられた新館の受付に集合し、それからソーク博士の簡単な紹介があり、建築的な内容に入った。

ソーク博士はポリオ・ワクチンを開発したことで知られる。当時のサンディエゴの市長がポリオ罹患者であり、個人的にサンディエゴへの研究所を求めたという。美しい研究所にしたかったソーク博士が、ペンシルヴァニア大学のリチャーズ医学研究棟を見て、その設計者であるルイス・カーンに依頼した。敷地はカリフォルニア大学サンディエゴ校の隣で、計画時はカーンによるゲストハウスも建設予定だったが、建つことは無かった。海に向かって右側の棟が1963年、左が1967年に建てられた。

ソーク研究所は、コンクリート打放し、型枠やセパ穴の設計、木製サッシ、海と空との対峙、サーブ空間とサーバント空間、が印象的だ。型枠はうまく使い回せるようにし、経済的でありながら、その目地が床石の目地や、階段の段板と合わせ、美しさも設計している。解説の人が安藤忠雄も見に来た、と話した。安藤コンクリートの美しさは、この建築からの影響を隠し得ない。セパ穴は、影を作り出すために埋められていない。木製サッシは丈夫なチーク製とのことで、当初のままのものが使われ続けたが、最近ようやく改修が計画されている。それも研究所らしく、実験的に行われるとのこと。

ルイス・カーンの建築は、それまでにアーメダバード(インド)にあるインド経営大学に行ったことがあった。インド経営大学ではレンガの外壁に開けられた円形の大胆な開口が印象的だ。強い日差しによって濃い陰影を生み出していた。レンガの外壁や大胆な開口は、インドでの施工精度も許容するように考えていたという。

海がとても近く見えるが、実際には少し距離があり、6~700m程度離れている。海、空、そして大地を同時に感じさせる構成になっている。カーンは中庭についてルイス・バラガンに相談し、植栽のない、空に対するファサードという意味で石張にしたという話があった。その石も外国(確か、イタリア)のものを使用しているが、輸入時は船の重しのための石として利用し、船の帰りは掘削時に出た石を使用することで、運搬費を節約したという。

サーバント空間は、この建物では設備スペースである。ポンピドゥーセンター(1977年)が設備配管を外に出し、山梨文化会館(1966年)がチューブに設備をまとめたように、利用者のためのスペース(サーブド空間)に影響なく将来的なメンテナンスをできるようにした。階高は低く、梁下ではかがんで歩かなくてはならない。

建物の高さが抑えられているが、地下空間もあり、研究室が並んでいる。通路があり、地下で両翼の2棟をつなぐようになっている。地下においても庭を大きく取っていて、空間的にも研究者の精神的にも暗くならないようにしている。

「ルイス・カーンとはだれか」(香山寿夫著)を持って行き、道中に読んだ。話していて熱が入ると、時に歌いだすというカーン。配置、形態、素材、機能の全てにカーンのリズムがあり、美しい建築のために人生を捧げたようにさえ思える。(文・写真:塩谷太一)

  • ツアーの始まり。

  • 中庭を見る。

  • 床に記されたソーク博士による言葉。

  • 研究室の様子1。

  • 研究室の様子2。

  • 海側から振り返る。

  • 影のリズム。

  • コンクリートが美しい。

  • 目地のデザイン1。

  • 目地のデザイン2。

  • インド経営大学1。

  • インド経営大学2。

  • インド経営大学3。

  • サーバント空間1。

  • サーバント空間2。

  • 地下の通路。

  • 地下からの見上げ1。

  • 地下からの見上げ2。

  • 海側から見上げる。

  • 両翼のさらに外側を見る。